歯科医師の仕事内容とは?医師や歯科衛生士との違い
歯科医師の仕事内容は、口腔内とその周囲の病気やケガの治療です。具体的には「むし歯や歯周病の治療」「予防処置」「機能回復」「矯正」「口腔外科治療」などがあります。口腔ケアによって全身の病気の治療成果が高まることもあり、内科や外科などと連携することも増えています。近年は、治療以外にも審美的な観点から歯を白くするホワイトニングなどの審美歯科を取り入れる歯科医院や医療機関もあります。
歯科医師の職場は、歯科医院(デンタルクリニック)が全体の85.9%を占め、11.1%が病院です。歯科医師の97%が医療機関で働いていて、歯科医院で働く65%が自ら医院を経営しています。
目次
歯科医師の主な仕事内容・業務
歯科医師の仕事は、「むし歯や歯周病の治療」「予防処置」「機能回復」「矯正」「口腔外科治療」など、口腔内とその周囲の病気やケガの治療がメインです。口腔ケアによって全身の病気の治療成果が高まるため、内科や外科などと連携する医科連携も増えています。
また、歯の色を白くしたり、歯並びや歯の形をきれいに揃えたりする審美歯科を取り入れる歯科医院もあります。
むし歯や歯周病の治療
むし歯や歯周病の治療は、多くの歯科医師の仕事の中心になるものです。むし歯の治療では、むし歯部分を削って、プラスチック素材のコンポジットレジンや金属の詰め物をします。歯周病治療では、歯垢や歯石を取り除き、歯の表面をきれいにします。歯石除去や歯のクリーニングは、歯科衛生士に指示をして任せることが一般的です。
また、むし歯や歯周病の状態を正確に把握するためには、X線写真なども活用します。痛みの出る治療では麻酔も使います。
予防処置
むし歯や歯周病になってから治療するだけでなく、予防することにも歯科医師は力を入れています。定期的なクリーニングや検診を行い、歯や歯ぐきの状態をこまめにチェックします。むし歯や歯周病は、生活習慣に大きく影響されるため、毎日の歯みがきを患者自身が行うことが大切です。歯みがきや口腔ケアを指導することも歯科医療の大きな役割です。
こうした保健指導は歯科医師自身も行いますが、多くは歯科衛生士が中心となって取り組みます。
機能回復
歯の機能を回復させることも大事な仕事の一つです。むし歯で歯を大きく削ったり、歯を抜いたりすると、うまく噛めなくなります。大きく欠けた歯には金属やコンポジットレジンで被せ物をしたり、抜けた歯の部分に入れ歯を入れたりして、歯を補います。人工の歯根を埋め込むインプラント手術を行うこともあります。
矯正
歯並びを治す矯正もよく知られている業務です。歯並びの悪さにより、見た目だけでなくしっかり噛めない、発音が上手にできないといった問題を引き起こします。また、歯みがきがしっかりできずに汚れや細菌が残り、むし歯や歯周病の原因にもなります。矯正治療では、歯にワイヤーなどを装着して少しずつ歯を動かして治療をします。治療が完了するまでには、年単位の長い時間がかかることもあります。
口腔外科治療
口腔外科治療では、歯や歯肉だけではない口腔内の病気や外傷、顎や唇の病気や外傷を治療します。口がうまく開かないなどの顎の関節の病気も扱います。歯の病気に限らず、口腔がんなども治療の対象となります。
医科連携
医科連携では、歯科医師による専門の口腔ケアを全身の病気の治療に役立てます。手術を受けて体の抵抗力が低下すると、口腔内に存在する細菌が肺や血液中に入りこみ、肺炎や合併症につながることがあります。そのため、手術前に歯科医師が専門的な口腔ケアを行う事例が増えています。歯科のない病院では、地域の歯科医師と連携することもあります。
審美歯科
審美歯科では、ホワイトニングをはじめ、歯並びや歯の形をきれいに揃えたり、歯ぐきの色や形を整えるなど、見た目の美しさを求めたケアをします。薬剤を使って歯を白くしたり、表面にセラミックをつけて歯の形と色を整えるなどの施術があります。一般の保険治療で装着した金属の被せ物を、自然の歯の色に近いセラミックに変えて見栄えをよくすることも審美の領域として行われます。
歯科診療科の種類
歯科で標榜することが認められている診療科は「一般歯科」「矯正歯科」「小児歯科」「歯科口腔外科」の4つです。「一般歯科」は歯科全般、「矯正歯科」は歯並びや噛み合わせの不具合の治療を専門に行います。「小児歯科」は子どもの歯の治療を中心に行い、恐怖心を和らげられる工夫にも力を入れます。「歯科口腔外科」では顎の骨折や口腔内のがんなど、口腔内とその周囲の外科的な手術や治療をします。
歯科医師と医師の違い
歯科医師と医師は、診療の対象とする部位が異なります。歯科医師は歯や口腔内、顎、頬、舌の一部、唇など、口の中とその周囲を対象に診療することができます。むし歯を削って詰め物や被せ物を入れる処置、入れ歯をつくって歯を補うなど、歯の機能が失われた場合に補填する処置は、歯科医師しかできないと決められています。
一方、医師は専門とする診療科はあるものの、全身が対象になります。歯科医師も歯科治療に必要な場合は、全身麻酔や呼吸管理をすることができ、死亡診断書を書くことも可能です。
資格は、歯科医師は歯学部を卒業し歯科医師国家試験に合格して取得します。医師は医学部を卒業して、医師国家試験に合格して取得となります。歯学部も医学部も6年制で、解剖学や生理学、病理学など、基礎的な医学に関わる科目は両学部とも学びます。
歯科医師 | 医師 | |
---|---|---|
免許 | 歯科医師免許 | 医師免許 |
診療範囲 | 口の中とその周囲 | 歯科の治療を除く全身 |
詰め物や被せ物、 入れ歯を入れる治療 | できる | できない |
卒後の研修期間 | 1年 | 2年 |
給与(年収) | 約810万円 | 約1440万円 |
歯科医師と歯科衛生士の違い
歯科医師と歯科衛生士は、協力しあって診療を行いますができる業務が大きく異なります。歯科医師は、むし歯の治療で歯を削ったり、詰め物や被せ物を装着したり、場合によっては歯を抜くなどの診療・治療行為ができます。
歯科衛生士は、歯のクリーニングや歯ぐきの状態の点検など、予防処置の業務のほか、患者への歯科保健指導、診療の補助を行います。手術などの治療行為はできません。業務は、必ず歯科医師の指示のもとに行い、歯科衛生士のみで業務を行うことはできません。
歯科医師 | 歯科衛生士 | |
---|---|---|
免許 | 歯科医師免許 | 歯科衛生士免許 |
仕事内容 | 歯科診療・治療全般 | クリーニングや点検、 歯石取り、患者への指導 |
業務の範囲 | 診療の責任を持ち全て判断可能 | 歯科医師の指示のもとで業務 |
給与(年収) | 約810万円 | 約382万円 |
歯科医師と歯科技工士の違い
歯科技工士は、歯科技工物を専門に作成します。むし歯治療に必要な詰め物や被せ物、入れ歯や差し歯、矯正治療を行う場合の装具などを作ります。歯科医師が自分で技工物を作成することもできますが、診療との両立は難しく、歯科技工士に作成を依頼するのが一般的です。口の中に装着することは、歯科医師でなければできません。
歯科技工士は病院や歯科医院に勤務し、院内で歯科医師の指示を受けて業務を行う場合と、歯科技工所に在籍して歯科医師から発注を受ける場合があります。
歯科医師 | 歯科技工士 | |
---|---|---|
免許 | 歯科医師免許 | 歯科技工士免許 |
詰め物・被せ物 入れ歯の作成 | できる | できる |
歯の型取り | できる | できない |
技工物の装着 | できる | できない |
給与(年収) | 約810万円 | 約429万円 |
職場・就業場所
歯科医師の就職先の97%が病院や診療所などの医療機関です。医療機関の中では、歯科医院(デンタルクリニック)が全体の85.9%を占め、11.1%が病院に勤務しています。そのほか、公務員として国や自治体で口腔衛生の政策立案を担ったり、介護施設で高齢者の口腔機能を管理するなどの仕事があります。少数ですが、歯科治療に関連する企業で働く人もいます。
歯科医院(デンタルクリニック)
歯科医院(デンタルクリニック)は、歯科医師の約86%が働く代表的な就職先です。約65%が医院を経営し、35%は雇われて働いています。一般的なむし歯や歯周病の治療、定期検診が主な仕事ですが、ホワイトニングや矯正など審美の治療に力を入れる医院や、小児歯科、矯正歯科など、専門的な治療に特化した医院もあります。また、自治体と連携し、地域の小中学校に赴いて歯科健診を行ったり、企業と提携し産業歯科医として役割を果たすこともあります。
2022年の調査では、全国に6万7,550軒の歯科医院があります。
診療所・歯科医院で働く歯科医師
厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」より
歯科医院の開業医
歯科医院で働く歯科医師のうち、65%が自分で歯科医院を経営しています。歯科医師は、キャリアの初期は歯科医院や病院で働き、指導を受けながら技術を身につけていきます。経験を重ねた後は、独立開業することが多い職業です。開業医は、診療業務だけでなく、雇用や診療方針、教育など幅広い経営に労力を割く必要があります。
歯科診療所総数と新規開設数
厚生労働省「医療施設調査」より
病院
病院で働く歯科医師は全体の11.1%で、そのうち7割以上は大学付属の病院です。歯科医院と比べると、20代~30代の歯科医師の割合が高くなっています。大学院生として研究しながら診療を行う人もいます。病院では、歯科医院では治療の難しい症例や、顎や口腔内の外科手術を扱うほか、他の科で手術を行う人の口腔機能管理、放射線治療の副作用軽減など、医師と協力して全身疾患の治療に関わることもあります。
病院で働く歯科医師
厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」より
訪問歯科診療
訪問歯科診療は、高齢者など通院が難しい人を対象に、病院や歯科医院の歯科医師が訪問して診療を行うものです。訪問専門の歯科医院も存在します。患者の自宅のほか、介護施設で複数の人の治療を行うこともあります。仕事内容は歯科医院とほぼ同じですが、高齢の患者が中心のため、入れ歯の調整や修理、介護者、家族への指導などが一般診療より多くなります。
近年は、施設への訪問診療が増えており、今後も含めたニーズの高さがうかがえます。
介護施設
介護施設で働く歯科医師は、2018年の調査で34人います。利用者がしっかり食事を摂取し自立生活ができるように、入れ歯の調整やむし歯治療、専門的な口腔機能管理を行います。高齢者の口腔機能を保つことが、健康維持に貢献し介護の重度化を防ぐことがわかってきており、介護分野での仕事は増えていくと予想されています。
保健所・公務員
公務員として働く歯科医師は314人で、全体の0.3%です(2018年調査)。厚生労働省では医系技官として、国全体の口腔衛生をどう向上させていくか、現状の調査をしつつ、政策を計画し遂行していきます。都道府県や市町村の役所・保健所では、国の方針に沿って地域住民の口腔の健康維持・増進に努める歯科医師もいます。自衛隊歯科医官として、自衛隊員の歯科診療や検診、災害復興や国際協力に従事する道もあります。
企業・メーカー
歯科治療用器具を開発する企業や、口腔ケア製品や医薬品を開発・製造するメーカーでは、歯科の専門知識を持った人材を必要としています。少数ですが、歯科医師がこうした企業で専門知識と技術を発揮することも可能です。
歯科医師の1日のスケジュール
歯科医師の多くは歯科医院や病院に勤務しており、1日のスケジュールは勤務先や役職などによって変わってきます。歯科医師は、最新の治療方法や医療情報を常に勉強する必要があるので、正規の仕事以外に勉強会に参加したり、症例の研究をすることもあります。
歯科医院での1日
歯科医院は、朝9時ごろに診療が始まることが一般的です。歯科医師は30分以上前には出勤し、予約の入っている患者のカルテを確認します。12~13時ごろまで午前診療を行い、午後の診療は14~15時からです。歯科医院は予約制がほとんどで急患は多くありませんが、急な痛みなどで来院した患者がいれば、予約の合間を見て診察し、時間の調整をします。
終業後は勉強会に出席したり、専門医を取得するための研究に時間を使う歯科医師も多くいます。治療方法も進歩するため、常に勉強が必要です。訪問歯科診療が増えている現在、曜日や時間を決めて訪問診療にあてる歯科医院もあります。
大学病院での1日
大学病院で働く歯科医師は、診療のほかに教育や研究が主な仕事となります。診療は週に1~3日程度で、午前か午後が決められます。午前に診療、午後に学生指導を担当する日であれば、朝8時ごろからほかの歯科医師、歯科衛生士などのスタッフと朝礼を行い、当日の診療内容の確認をします。ほかの診療科と連携した診療もよく行います。午後の教育活動では、講義だけではなく実習で診療の技術などを指導します。
そのほか、文献を読んだり、実験をしたり、テーマに合わせて研究活動も行います。学会に所属し、定期的に研究成果を発表するため、ある一定の期間に研究成果を出す必要があります。そのために、夜遅くまで大学に残って研究を行うことも珍しくありません。自分の研究テーマではなくても、歯科一般の最新治療や医療の情報を得ることも欠かせない仕事です。
仕事の魅力
歯科医師の仕事の魅力は、人々の歯の健康を守れることがあります。治療が完了した患者から直接お礼を言われることも多く、人の役に立てた実感を持ちやすい職業です。資格取得のために6年間の勉強が必要で、取得後にも知識・技術を維持することは大変ですが、専門性が非常に高く、誰にでもできる仕事ではないとことは大きな魅力です。
口腔機能や口腔管理が、全身の病気の治療効果に影響を与えることがわかってきていることもあり、今後の歯科医師にはむし歯や歯周病などの口内の病気を治療するだけでなく、幅広く医療全体と連携することが求められます。より役立てる場面が増えていくことで、仕事の魅力もより大きくなっていきます。