か強診「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」とは?
高齢化が進み、高齢者の歯周病ケアや口腔管理のニーズが高まっています。そのような現状の中、地域医療で重視されるのがかかりつけ歯科医院の役割です。かかりつけの歯科医院を持つか持たないかは、患者さんの生活の質や全身の健康に影響します。
ここでは、初期う蝕の治療や歯周病管理、訪問診療などの保健診療を強化して地域に貢献する加算か強診(かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所)についてまとめます。
目次
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所とは
「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診/かきょうしん)」は平成28年の診療報酬改正で新設されました。
この加算は、定期的に患者の口腔管理をすることで歯周病やむし歯を防ぎ、歯を失うリスクを軽減することを目的とし、外来診療や訪問診療の体制強化、環境の整備など一定基準を満たした診療所が届出ることができます。
SPTなど加算を算定できる
か強診の届出をした歯科医院は、予防や訪問診療のいくつかの項目で加算を算定できます。加算を算定できる頻度においても、一部の項目ではか強診でない歯科医院より多いため、初期う蝕や歯周病の重症化予防管理に注力しやすくなるメリットがあります。
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の特徴
昨今、地域で包括的に患者さんを診る、医療・介護福祉の連携体制が重視されています。慢性疾患や認知症の患者さんのケアにおいては特に他の医療機関・施設との連携が求められます。か強診にはそれらのニーズに応える厳格な施設基準があります。
例としては、歯周病治療の実績、地域医療との連携体制、訪問歯科の体制・実績、院内環境の整備状況などがあげられます。
それぞれの施設基準とか強診の実績をみていきます。
訪問診療の体制
以下のグラフはか強診とそれ以外の歯科医院の、歯科訪問診療の経験の有無を、平成28年に調査したものです。か強診以外の歯科医院の実績は、か強診の約半分となっています。
歯科訪問診療の経験の有無
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より
訪問診療に関連する施設基準
か強診の「訪問診療」に関する施設基準は以下のとおりです。
過去1年間に「歯科訪問診療1」もしくは「歯科訪問診療2」の算定回数、または連携する「在宅療養支援歯科診療所1」もしくは「在宅療養支援歯科診療所2」に依頼した歯科訪問診療の回数があわせて5回以上であること。
医療機関、介護保険施設との連携
下記のグラフは「か強診」とそれ以外の歯科医院の、他の医療機関、介護保険施設との連携の有無をあらわしたものです。「か強診」は他の施設との連携体制が施設基準となっているため、実績としても多い結果となっています。
医科医療機関・歯科医療機関との連携の有無
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より
介護保険施設等との連携の有無
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より
医科・介護連携に関連する施設基準
✓過去1年間に診療情報提供料又は診療情報連携共有料をあわせて5回以上算定している実績があること。
✓医療機関に、歯科疾患の重症化予防に資する継続管理に関する研修(口腔機能の管理を含むものであること)、高齢者の心身の特性及び緊急時対応等の適切な研修を修了した歯科医師が1名以上在籍していること。
✓診療における偶発症等緊急時に円滑な対応ができるよう、別の保険医療機関との事前の連携体制が確保されていること。
このほかの施設基準は、歯周病安定治療など予防治療の算定回数、AEDなど設備の設置など、あわせて10項目の基準が設けられています。
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か強診の歯科衛生士の数は?
こうした基準を満たすためには、施設や人員を整備する必要があるため、か強診では一般的な歯科医院より職員の数が多い傾向があります。 2016年の調査において、歯科医衛生士の平均人数は、か強診が2.87人、か強診以外の歯科医院で1.06人となっています。
歯科医院にとってのメリット
歯科医院にとってか強診の基準をクリアすることはどんな変化があるのでしょう。
厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」によると、「初期う蝕の管理に積極的に取り組むようになった」に「当てはまる」と答えた割合が34.0%、「歯周病の重症化予防管理に積極的に取り組むようになった」と答えた割合は39.0%におよび、歯科医院の取り組みに変化がみられました。
初期う蝕の管理に積極的に取り組むようになった
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より
歯周病の重症化予防管理に積極的に取り組むようになった
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より抜粋
こうした歯科医院の変化は、歯科衛生士などスタッフの意識の変化にもつながっているようです。
「か強診」届出による変化の声
同調査によると、届出による変化について以下のようなコメントがあげられています。
定期的な予防管理、重症化予防など保険診療強化のほか、スタッフの意識への影響もあります。
歯周病安定期治療(SPT)について
- 患者の状態に応じて再来時期を調整できるようになり、より効果的な管理が可能になった。
- 今までよりじっくり説明・処置ができるようになった。
- 今まで点数がなくても行ってきたことが点数で評価され、今までやってきたことが間違い ではなかったと実感している。
- 歯科衛生士の意識も変化し、口腔ケアへの取組み方が変わった。
- 重症化予防に努めることで、患者からの信頼がより厚くなった。
- 治療メインから予防管理するスタイルに変化。
- 1か月ごとに来院してもらい、歯周病が安定化している。
- メンテナンスにかかる歯科衛生士の時間的割合が増えた。
エナメル質初期う蝕(Ce)について
- エナメル質初期う蝕の患者への対応が充実。
- エナメル質初期う蝕の患者にフッ素塗布を保険で行いやすくなった。
- 初期う蝕に対しての予防がエビデンスに基づいて行えるようになり、効果的である。
その他
- スタッフの意識が向上した。
- 定期的に口腔管理を行う患者が増えた。
- 高齢者の歯科治療希望(う蝕、歯周病、義歯等)の患者が増えた。
- セカンドオピニオンを求められることが増えた。
- かかりつけ歯科医の責任を大きく感じるようになり、日頃からの生活習慣の改善と生活習 慣病の予防について言及するようになった。
※厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」より抜粋
このように、か強診は歯科医院の意識変容や患者さんの安心感につながる基準です。しかしながら、か強診の届出は2023年では歯科医院全体の20%未満にとどまっています。背景には複数の歯科医師、歯科衛生士の配置が難しい、訪問診療の実績の難しさなどがあります。
届出数は年々微増ではありますが、予防に関する保険診療の拡大に伴い、歯科衛生士の活躍の場はますます広がることが考えられます。
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