
近年、日本でも多くの医療機関が「NST」による栄養管理を取り入れるようになってきています。
病気で手術を受けた方が適切な栄養管理を受け、退院日数が短縮されたなどの報告が増えるとともに、注目されるようになりました。連続ドラマでも取り上げられ、一般の方にも認知が広がっています。
現在、診療報酬加算では「栄養サポートチーム加算」も置かれ、診療科や職種の垣根を超えた栄養ケアが進んでいます。
NSTの目的や重要性、取り入れられるようになった背景について解説します。
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理学療法士、言語聴覚士、歯科衛生士
NST(栄養サポートチーム)の定義と目的とは
NSTとは、Nutrition Support Teamの頭文字をとった言葉であり、日本語では「栄養サポートチーム」と訳されます。
その名が表す通り、患者さんの栄養管理を適切に行うためのチームのことであり、医師や管理栄養士をはじめ、看護師、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、言語聴覚士、歯科医師、歯科衛生士、介護福祉士など、多種多様な専門性を持つメンバーから構成されます。

栄養サポートが重要な理由とは
栄養は、人が健康に生活していくために欠かせないものです。適切に栄養が摂取できていれば、病気やけがを防止しやすくなったり、治療の経過がよくなったりしますが、栄養状態が悪ければ、治癒に時間がかかったり、合併症にかかりやすくなったりします。
NSTは、このような栄養状態と病気・治療との関連性に着目して設置されるようになった医療チームです。患者さんに最適な栄養管理を提供することで、栄養状態の改善や病気の進行予防、症状改善を図っています。
NSTの歴史
NSTは、1968年にアメリカで中心静脈栄養(TPN)が開発されたことを受け、その適応と安全管理の実施を目的として誕生したのが始まりとされています。日本では1998年に鈴鹿中央総合病院がNSTを取り入れたのをきっかけに、全国の医療機関に普及するようになりました。
NST以外の医療チーム
チーム医療が推進されている現代の医療現場では、患者さんの症状や容体などに合わせてさまざまなチームが構成されています。
具体的には、下記のようなチームがあります。
- 緩和ケアチーム
- 糖尿病ケアチーム
- 摂食嚥下チーム
- 救急医療チーム
- 感染対策チーム(ICT)
- 認知症ケアチーム
などの種類があり、複数の医療従事者がチームとなり、それぞれの高い専門性を活かし補完し合うことで医療の質を高め、患者さんに医療・ケアを提供しています。
NSTの役割
患者さんの栄養面から健康状態を確認して回復を総合的に支えることがNSTの役割です。栄養状態を評価し、適切な管理を行います。
その具体的な役割・業務内容を解説します。
栄養評価とケアプランの策定
栄養サポートにおいてまず行われるのは、看護師や管理栄養士、薬剤師などによる対象者の抽出です。そのうえで栄養状態の評価とケアプランの策定が行われ、そのプランに基づいた介入が行われます。
モニタリングと栄養評価
栄養サポートプランの実施中は、継続したモニタリングを行うことで、
・プランが適切に進められているか
・変更や調整は必要ないか
・合併症の危険性はないか
といったことを確認します。
チームメンバー全員で多角的な視点からプランの再評価を行うことで、より適切な栄養サポートプランへの調整が可能になります。
患者さんとその家族への指導
栄養サポートプランに基づき、患者さん本人やそのご家族への指導や協力要請を行うのもNSTの役割です。
・プランの説明や栄養指導
・服薬指導や口腔ケア指導
・退院時指導
人とのコミュニケーションが多いことも特徴です。
NSTの構成メンバーと仕事内容
NSTは、医師や看護師、管理栄養士をはじめとした他職種で構成されます。それぞれが持つ主な役割を解説します。
医師
医師は、チームのリーダーとして最終的な意思決定と方向性の提示を担う立場です。対象となる患者さんの問題点の提示や栄養状態の評価、プランの効果判定や病状確認などを行います。
管理栄養士
管理栄養士は、対象者の抽出や栄養アセスメント(栄養状態の評価)、プランニングなどを行います。患者さんの嗜好調査や栄養指導、栄養療法関連食品の情報提供なども管理栄養士に求められる役割です。
看護師
対象者の抽出や栄養アセスメントとともに、情報把握と共有をすることが看護師の役割です。ほかの職種よりも長い時間を患者さんのそばで過ごす職種として、食事量や体重の増減、栄養摂取状況などを迅速に把握し、チームへ共有する役割があります。
薬剤師
薬剤師は、対象者の抽出や栄養アセスメントのほか、栄養療法に関する提案や栄養薬剤の選択、相互作用の確認などを行います。服薬指導や、栄養療法に関連する情報の提供を行うのも薬剤師の役割です。
臨床検査技師
臨床検査技師は、検査データに基づいた対象者の抽出を行います。検査データの集計や解析、共有、追加検査の提案などを行うのも臨床検査技師の役割です。
言語聴覚士
言語聴覚士は、摂食・嚥下機能の評価やリハビリテーションを行います。摂食・嚥下機能に関する問題点の把握やチームメンバーへの共有を行うのも言語聴覚士の役割です。
理学療法士
理学療法士は、基本動作能力の回復や維持、悪化の防止を担う立場として、全身のリハビリテーションを行います。運動機能の回復を図ることで、食欲増進や栄養吸収状態の改善を図ります。
作業療法士
作業療法士は、食事や着替え、入浴といった生活に必要な機能回復を支える専門家です。NSTにおいては、食事をする際に必要となる腕や指先のリハビリテーション、食事をとりやすい献立の提案などを行います。
歯科衛生士
歯科衛生士は、口腔ケアの専門家として口腔ケアの実施や指導を行います。口腔環境の評価やご家族への口腔ケア指導も担います。
その他
NSTは適切な栄養サポートを提供するために構成されるチームであり、必要な知識や技術を有していれば、職種にかかわらずメンバーの一員となることができます。医療機関の方針や対象となる方の病状などによって異なりますが、前述した職種のほかに歯科医師や診療放射線技師、クラークなどもチームの一員として栄養管理を担います。
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NST専門療法士とは?
NSTについて深く学ぶには、資格取得という選択肢があります。
NSTに関わる医療従事者の専門性を評価、高めるための資格として、「NST専門療法士」があります。日本栄養治療学会(JSPEN)が認定を行う、NST専門療法士の役割や資格の取得方法について解説します。
NST専門療法士取得のメリット
NST専門療法士は、静脈栄養・経腸栄養を用いた臨床栄養学に関する優れた知識と技能を有している人に与えられる資格です。
資格を取得することで、NSTに関する知識と技術を客観的に証明することができ、よりチームの中心メンバーとして栄養サポートに関われるようになります。病院内での信頼度アップやキャリアアップにもつながります。
NST専門療法士になるには
申請要件
NST専門療法士の申請要件は、管理栄養士、看護師、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、診療放射線技師のいずれかの国家資格取得後3年以上が経過していることです。
また、「栄養サポートに関する業務に従事した経験があること」「JSPEN会員であり、JSPEN学術集会に1回以上参加経験があること」「NST専門療法士受験必須セミナーの受講」「JSPEN学術集会(10単位/回)、NST専門療法士受験必須セミナー(10単位/回)を含む合計30単位の取得」「JSPEN認定教育施設における40時間の実地修練の修了」といった要件も満たす必要があります。
これらの要件を満たしたうえで申請を行い、書類審査、認定試験をクリアすればNST専門療法士の認定証が発行されます。
申請期間
申請期間は毎年7~8月頃となっており、審査・受験料は10,000円、認定料は20,000円で認定期間は5年間です。また、認定試験は筆記試験となっており、毎年10月ごろに行われています。
NSTのこれから
高齢化が進行する日本において、高齢者の低栄養の改善や、栄養管理に伴う病気の予防・早期発見は重要な課題です。
また、NSTにより適切な栄養管理がなされ治癒の促進や合併症の予防が行われることは、患者さんの早期機能回復、ひいては医師や看護師の負担軽減、病院の経費削減にもつながります。超高齢化社会の進行、医療業界の人材不足といった問題を抱える日本において、NSTの需要は今後も高まっていくといえるでしょう。