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・2024年の都道府県別最低賃金を知りたい
最低賃金は、毎年7月~8月に引き上げ額が決定し、10月に改訂されます。生活に直接影響を与える改訂だけに国民からの関心も高く、2024年10月に投開票が行われる衆議院選挙では、多くの党が公約として最低賃金の引き上げを挙げています。では、最低賃金引き上げにはどのような目的や影響があるのでしょうか。最低賃金引き上げによるメリット・デメリットなどを交えて解説します。
最低賃金とは?
その名が示す通り、最低賃金とは、日本が定める賃金の最低額のことです。最低賃金法に基づき、厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会が毎年目安額を決定し、その額に基づいて都道府県の審議会が最低賃金を設定しています。
この「最低賃金法」は、1959年に制定されました。これは、それまでの労働基準法に基づく最低賃金制がほとんど機能していなかったことに対し、国民の批判が強まったことが原因です。しかし、最低賃金法が制定された後も、当初は「業者間協定」が採用されており、業界や企業の都合が優先された最低賃金の取り決めが行われていました。そのため、再度国民からの批判が強まります。それにより、1968年に最低賃金法の改正がなされ、現在まで続く「審議会方式」と「目安制度」が取り入れられました。
「目安制度」では、各都道府県をA、B、C、Dからなる4つのランクに分けて目安額を決定しています。それにより、地域ごとの実情に即した引き上げ額でありながらも全国的に極端な差が出ないよう、全国的整合性が図られています。
最低賃金の種類は2つ
最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2つの種類があります。
地域別最低賃金とは、その都道府県内で働くすべての労働者と使用者に対し適用される最低賃金のことです。「労働者の生計費」「労働者の賃金」「通常の事業の賃金支払能力」を総合的にみて、都道府県ごとに額が定められています。
これに対し特定最低賃金とは、特定の産業に対して定められている最低賃金のことです。最低賃金審議会が「都道府県ごとの最低賃金額よりも高い水準の最低賃金が必要」だと認めた産業に対して設定されています。
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2024年の最低賃金
2024年度は、最低賃金が全国平均1,055円に引き上げられました。これは、前年度の1,004円から51円の引き上げとなっており、過去最高の引き上げ額です。引き上げ額が最も高かった都道府県は徳島県で84円、引き上げ後の最高時給は東京都の1,163円となっています。
都道府県名 | 最低賃金時間額【円】 | 改定前の最低賃金額 | 引上げ率【%】 |
---|---|---|---|
全国加重平均額 | 1,055 | 1,004 | 5.1 |
以下が、都道府県ごとの最低賃金時間額と引き上げ率です。
都道府県別 最低賃金一覧
都道府県名 | 最低賃金時間額【円】 | 改定前の最低賃金額 | 引上げ率【%】 |
---|---|---|---|
北海道 | 1,010 | 960 | 5.2 |
青森 | 953 | 898 | 6.1 |
岩手 | 952 | 893 | 6.6 |
宮城 | 973 | 923 | 5.4 |
秋田 | 951 | 897 | 6.0 |
山形 | 955 | 900 | 6.1 |
福島 | 955 | 900 | 6.1 |
最新の最低賃金引き上げの背景
円安傾向や物価上昇が続く中で、最低賃金引き上げに関する議論は加熱しています。個人消費の喚起や労働者の生活を守るために、政府や労働組合が積極的に引き上げを求める一方、企業負担増加の懸念を訴える声もあります。
では、海外諸国での最低賃金引上げ事情はどのようになっているのでしょうか。
海外の最低賃金の状況とは?
2024年1月1日時点の最低賃金額で比較すると、まず日本の最低賃金時間額は1,004円となっています。それに対しアメリカは、7.25ドル、日本円にして約1,044円です。
これは連邦政府が定めている連邦最賃であり、ここ数年引き上げが行われていません。しかし、アメリカでは各州や市などが独自で最低賃金を設定しているという特徴があります。また、これらの額が連邦政府が定めた額よりも高い場合には、高い水準の最低賃金が適用されるため、ワシントンD.C.では時給17.5ドル、サンフランシスコ市では18.67ドルといったように、連邦最賃を大幅に超える額を設定している地域も多くあることが特徴です。
そのほか、オーストラリアでは23.23オーストラリアドル、日本円にして約2,253円が、2024年1月1日時点での最低賃金でした。オーストラリアでは毎年最低賃金が引き上げられており、2020年は19.49オーストラリアドル、2021年は19.84オーストラリアドル、2022年は 20.33オーストラリアドル、2023年は 21.38オーストラリアドルに最低賃金が引き上げられました。2023年から2024年の1年間での上昇率は、8.65%となっています。
引き上げによるメリット
最低賃金の引き上げには、複数のメリットがあります。
まず、労働者側にとって大きなメリットとなるのは、貧困の解消や生活の安定につながる点です。物価上昇や低賃金により生活が困窮していた場合、所得が最低賃金引き上げにより増えることで、生活費の負担が軽減されます。また、正社員と、派遣社員や契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトなどの非正規雇用社員との賃金格差が少なくなる点もメリットです。
企業側にとっても、従業員のモチベーションアップやよりよい人材の確保につながるといった利点があります。人件費が増える点はデメリットといえますが、その分、会社全体の経費を見直すきっかけにもなるでしょう。
また、社会全体から見ても、最低賃金引き上げにはメリットがあります。まず挙げられるのは、最低賃金引き上げによって生活費に余裕が生まれることで、消費活動が活発になり、経済の活性化が見込まれる点です。それにより、企業の業績向上も見込めます。
さらに、生活にゆとりが生まれることで、少子化の解消も徐々に進む可能性があります。少子化は、進行することで労働力人口の減少、市場規模の縮小、現役世代の負担増大といった経済的な負のスパイラルを生み出します。最低賃金引き上げにより、子どもを持ちたくてもあきらめていた方などが子育てを今よりも負担なくできるようになれば、少子化の進行に歯止めがかかり、そのような負のスパイラルを断ち切れる可能性があります。
引き上げによるデメリットと懸念
一方で、最低賃金引き上げにはデメリットもあります。
代表的なデメリットとしては、人件費が拡大し、企業の業績が悪化する恐れがあることです。特に、最低賃金に近い額で多くのアルバイトやパート従業員を雇用している企業や店舗などは、最低賃金引き上げによる影響を大きく受けることになります。この影響は、最低賃金額の引き上げ率が高い地方自治体で、特に顕著に現れます。その結果、雇用数が減り人員不足に陥る可能性や、労働者側にとっては働き先が見つからなくなる可能性もあります。また、人件費が増大することにより、設備投資にかけられる資金が減ったり、福利厚生を縮小したりする可能性もあり、これは企業はもちろん、労働者にとってもデメリットとなります。
アルバイト・パート従業員の最低賃金が引き上げられることによる影響は、企業で働く正社員にもあります。例えば、アルバイトやパートなどの非正規雇用従業員の給与が引き上げられる一方で正社員の給与が変わらない場合、モチベーションの低下につながる恐れがあります。また、人件費の削減により非正規雇用者が減った場合には、その穴埋めを正規雇用者がしなくてはなりません。このような負担やストレスの増加が、人材不足に拍車をかける場合もあります。企業側は、このようなデメリットを踏まえながら、正規雇用者・非正規雇用者、そして企業側にとっての負担を軽減するための施策をとっていく必要があるといえます。
実際の影響:過去の引き上げ事例から見る教訓
最低賃金引き上げによるメリット・デメリットを挙げましたが、労働者の実際の生活には、必ずしもその通りの影響が出ているとは限りません。例えば、2002年の最低賃金引き上げによる属性ごとの家計調査によると、最低賃金で働く労働者の半数以上は、世帯収入が500万円以上の世帯員であるという結果が出ています。つまり、世帯主の配偶者や子どもなどが最低賃金で働いているパターンであり、最低賃金引き上げによって恩恵を受けるのは、生活が困窮している世帯以上に、世帯員としてアルバイトやパートを行っている中所得者層だといえます。このことから、本当に生活が困窮している低所得者層の所得を上げるためには、そのほかの施策も必要になると考えられます。
しかし、最低賃金の引き上げが意味をなしていないわけではありません。また 、最低賃金の引き上げにより労働コストが高くなり、その結果技術革新が進むだろうという見方もあります。どちらにしても、最低賃金の引き上げや貧困対策に関して、今後はより実証的な検証が行われるべきだといえるでしょう。
引き上げに対する世論や各界の反応
最低賃金引き上げに対する世論は、賛成と反対に分かれています。アルバイトやパートなどで働く労働者の多くは引き上げに期待を寄せており、実際に賃金が上がった人の4人に1人は、それにより仕事へのモチベーションが上がったと回答しています。
また、2023年に行われた調査によると、調査に参加した2,259企業の84.01%は、賃金引き上げを許容できると答えています。しかし、許容できる上昇額については50円以上と50円未満がほぼ同割合となっており、全体の15.09%の企業が許容できないと答えていることからも、2024年の賃金引上げでは多くの企業が少なからず業績への打撃を受けていることが予想されます。
別のアンケート調査では、最低賃金を引き上げる予定の事業所の約9割が「引き上げを負担に感じる」と答えており、経営悪化に対する懸念を挙げる声も少なくありません。また、人件費の上昇分を商品の販売価格で補填する事業所は4割弱となっています。
今後の見通しと展望
「2030年代半ばまでに1,500円を目指す」政府方針だった最低賃金ですが、2024年10月に就任した石破茂首相はその時期を「2020年代」にすると明らかにしました。そのことからも、今後も最低賃金はさらに引き上げられていく可能性が高いといえます。
しかし、急激な賃金の引き上げは、特に中小企業に対し、大きな打撃を与えます。人件費の増加が失業率や倒産率に大きな影響を与える懸念もあり、その実施方法やペースによる経済全体への影響には、注意する必要があります。
その一方で、先進諸外国の中で日本の最低賃金は依然として最低水準です。また、首都圏と地方での賃金格差も残ります。そのため、最低賃金引き上げの目的の一つである「労働者の生活保障」という観点では十分とはいえない状況であり、この点から見ると大幅な引き上げが期待されます。
まとめ
労働者の生活の安定化、消費拡大による景気回復のために、最低賃金の引き上げは欠かせません。しかし、企業の経営負担の増加やインフレリスクにどう対処するか、引き上げが貧困への適切な対策になっているのかといった課題もあります。今後、さらに最低賃金の引き上げていくうえでは、ただ引き上げるだけでなく、引き上げが可能な環境をどう作っていくのか、より適切に貧困対策を進めるためにはどのような施策を進めるべきなのかが問われていくでしょう。