
感情労働とは?わかりやすく解説
感情労働とは、自分自身の感情のコントロールが必要な労働のことです。近年注目を集めるようになった感情労働について、その概要を解説します。
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感情労働の概要
「感情労働」は、アメリカの社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドによって提唱された概念です。顧客に対して、声や表情などを用いて適切な感情を演出することが求められる仕事のことを指し、看護師や介護職員、コールセンターのオペレーター、販売スタッフなど、主に対人サービスを行う職種が該当します。これらの職種では、相手(顧客)の精神安定や満足のために、「うれしい」「楽しい」といった気持ちの誘発、「悲しい」「腹立たしい」といった気持ちの抑制が必要となります。
感情労働と頭脳労働・肉体労働の違い
感情労働は、肉体労働・頭脳労働に次ぐ、第三の労働カテゴリとして注目されています。感情労働とこれら二つの労働の違いは、何を使って報酬を得るかという点です。肉体労働では自身の身体、体力を、頭脳労働では自身の頭脳を使って報酬を得るのに対し、感情労働では自身の感情をコントロールすることで報酬を得ます。
ただし、例えば看護師という仕事は、患者に前向きな気持ちになってもらうために言葉や表情を工夫するなど自身の感情をコントロールする必要があるとともに、体位変換などの力仕事を行ったり立ちっぱなしであったりと、体力が必要な仕事でもあります。
このことからもわかるように、感情労働、頭脳労働、肉体労働の労働カテゴリは、一つの職種に混在していることもあるというのが特徴です。
感情労働が増加した理由
感情労働が増加した背景には、サービス業の増加や競争の激化があります。人口の増加や、物質的豊かさから精神的豊かさへと求める豊かさの比重が移ってきたことにより、目に見える「物」ではなく、目に見えない「サービス」を提供する企業が増加しました。それに伴い、感情労働も増加しています。
また、SNSをはじめとしたインターネットサービスが普及したことも、感情労働が増加した要因です。誰でも簡単に情報が発信できるようになったことで、企業イメージは瞬く間に広まるようになりました。そのため多くの企業が、口コミなどによって企業イメージを落とすことがないよう、感情労働を重視した働き方を求めるようになっています。
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感情労働の具体的な職種と業界
対人業務を行う多くの職種が、感情労働を必要とします。代表的な感情労働職を解説します。
看護師や介護職など医療・福祉の仕事
看護師や介護士、医師、カウンセラーなど、医療業界や福祉業界で働く方々は、患者や利用者の心身の状態に合わせて、自身の感情をコントロールし対応する必要があります。不安や悲しみ、怒りを感じている患者さんや、病気などにより感情をコントロールできない患者さんも多く、そのような方々と信頼関係を築いていくためには、日常的に高度な感情コントロールが求められます。
顧客対応が中心のサービス業(営業・接客・コールセンターなど)
顧客の機微を察知して商品やサービスを提案する営業職や、顧客からの問い合わせやクレームに対応するコールセンターのオペレーター、飲食店や宿泊施設、小売店などの販売職も、感情労働が必要となる職種です。自身の対応が購買意欲や満足度に直結するとともに、ささいなことがSNSなどで拡散され企業イメージを落とすリスクもあるため、慎重な感情の管理が求められます。
教師など教育の仕事
保育士や幼稚園教諭、教師、塾や各種スクールの講師など、教育にまつわる仕事も感情労働の一つです。これらの仕事では、児童や生徒が学習に対するモチベーションを維持するために、自身の感情をコントロールする必要があります。また、児童や生徒の保護者との信頼関係を築く必要もあり、児童・生徒の成長や学習を支援しながら、保護者の期待にも応える必要があります。
感情労働が抱えるリスク
感情労働は、人々の生活を支え、その満足度を上げることのできる重要な仕事です。しかし、自分の感情の誘発や抑制を必要とすることにはいくつかのリスクもあります。代表的な感情労働のリスクを解説します。
ストレスの蓄積・増加
日々自身の感情をコントロールして顧客に向き合わなければならない感情労働は、ストレスがたまりやすいというリスクをはらんでいます。また、このようなストレスによって生じる精神的疲労は、肉体的疲労に比べて回復方法を見つけるのが難しいという問題もあります。
モチベーションの低下
感情労働によるストレスや精神的疲労が、仕事のモチベーション低下につながる恐れがあります。それによって退職に至った場合、本人には転職活動や収入が途絶えることによる負担、雇用主側には採用活動や離職率上昇による負担がかかることになります。
バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)
感情労働は、バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)になりやすいことが知られています。バーンアウト症候群は、それまで熱心に行っていたことに突然やる気が持てなくなる状態を指し、情緒的消耗感や脱人格化、個人的達成感の低下といった症状が定義されています。企業にとって従業員がバーンアウト症候群に至ることには、生産性やサービスの質の低下、休職や退職の増加といったリスクがあります。
精神疾患への影響
長時間にわたって自分の感情を誘発したり抑制したりしなければならない感情労働には、精神疾患を発症するリスクもあります。精神的ストレスや無理な感情抑制、職場環境に適応できないことへのプレッシャーなどから、うつ病や適応障害を引き起こす恐れがあります。
感情労働に向いている人の特徴
感情労働にはストレス増加や燃え尽き症候群などのリスクがありますが、中にはこれらのリスクが低く、感情労働とうまく付き合っていける人もいます。どのような人が感情労働に向いていて、どのような人は感情労働を避けたほうがいいかを解説します。
感情労働に向いている人
感情労働に向いているのは、仕事とプライベートを切り離して考えることができる人です。「仕事は仕事、自分は自分」と割り切って考えることができ、顧客のニーズに寄り添いながらも業務の範疇を超えた訴えには必要以上に対応しない方は、感情労働とうまく付き合っていけるでしょう。また、コミュニケーション能力が高い方や、ストレスコントロールがうまい方、感情労働のような対人業務にやりがいを感じられる方も、感情労働に向いているといえます。
感情労働に向かない人
求められたことにすべて対応しようとする方や、共感力が高すぎる方は、感情労働に向いていない可能性があります。このような方々は、顧客や利用者からの訴えにできる限り対応しようとすることで心身がすり減ってしまう可能性があります。また、感情労働は自分の声や表情、態度で相手の気持ちを前向きに導いたり、怒りを鎮めたりする必要があるため、このような感情のコントロールを苦手としている人も向いていないといえるでしょう。
感情労働におけるメンタルヘルスケア方法
感情労働によるリスクを回避し、またトラブルが起こった際にもその影響を最小限に食い止めるために、企業側はどのような対策をとることができるのでしょうか。感情労働におけるメンタルヘルスケア方法を解説します。
メンタルヘルスケア研修の実施
感情労働には「気づかないうちにストレスが蓄積される」「相手が顧客であるがゆえに我慢することが当然だと感じてしまう」「ストレス解消方法がわからない」といった特徴があります。メンタルヘルスケア研修により、感情労働の概要やストレスへのセルフケア方法、企業内での相談先などを伝えることは、感情労働への理解とともに、従業員が自身のストレス度合いを自覚し、早めに対処が可能になることにもつながります。
上司や産業医との定期的な面談
感情労働によるストレスを、周りの人に相談しづらいと感じる人は少なくありません。しかし、誰にもいえずに抱え込むことには、さらなるストレスの増加やそれによる精神疾患の発症、休職や退職といったリスクがあります。定期的に上司や産業医と面談ができる環境を整えることは、そういったリスクを未然に予防することにつながります。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックは、従業員が回答したチェックテストの結果を集計・分析することで、従業員のストレス状態を把握するものです。従業員本人と企業側がストレスの状態を把握することで、メンタルヘルスの不調を未然に防止するという目的があります。労働者が50人以上いる事業所では毎年1回ストレスチェックを行うことが義務化されていますが、その対象となっていない場合にも定期的にストレスチェックを行うことで、従業員のメンタルヘルスの維持や職場環境の改善につなげることができます。
相談窓口の設置、配置転換を検討する
感情労働におけるリスクを回避するために、職場環境を整えることも大切です。ストレスを抱えた際や何か問題に直面した際にその内容を共有できる相談窓口を設置したり、柔軟に配置転換ができる環境づくりをしたりすることで、感情労働のリスクを軽減することができます。
感情労働を理解すること、セルフケア
最後に、従業員本人が、感情労働の特性やメリット・デメリットを理解し、適切な対処法をとることも大切です。感情労働のストレスや影響は自覚しづらい部分があるため、どのようなリスクがあり、どのような考え方やストレス解消法を持つことでストレスをためづらくなるのかを知っておくと、感情労働によるリスクを低減しやすく、またストレスを感じた際にも早めに対処ができるようになります。「体を動かす」「気持ちを紙に書きだす」「腹式呼吸をしてみる」「音楽を聴く」など、手軽にできるセルフケア方法を実践してみましょう。また、それでも回復しない場合には、家族や友人、同僚などに相談したり、短期間でも仕事から離れてみたり、産業医などの専門家に頼ってみたりすることも検討してみましょう。
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